かなり広く信じられている説に、
『ペットを飼うと子どもが動物全般に対してアレルギー体質になる。というものがあります。』
医師たちはアレルギーになりやすい家系の人に、毛の生えた動物を飼わないほうがいいと教えます。
飼い犬に接触して免疫系が傷つけられた子どもは、毛やフケにかぎらず、どんな種類のアレルゲンに対しても抵抗力が弱まると説く医師たちも最近までいました。
しかし、犬(や猫)のアレルギーの性質は、専門家が考えていたものとは逆のようです。
最近の研究では、子どもが毛の生えたペットと接しながら育つと、アレルギーになりやすくなるのではなく、なりにくくなることが実証されたのです。
その研究の一部は、オーガスタにあるジョージア医科大学のアレルギーおよび免疫学部門のチームがおこなったものです。
同部門の部長を務めるテニス・R・オウンビーは、研究チームが試行錯誤しながらたどりついた結果について、つぎのように説明しています。
『チームは、子どもたちを誕生時から7歳まで観察し、アレルギー体質を生む最大の原因を探りました。私たちは塵ダニが、その最大の原因ではないかと推測しました。』
彼らは、アレルギーの原因になりそうなその他の要素についても調べました。
親の喫煙やペットなどです。
しかし、あてははずれました。
『2百万ドルついやしても、結果はでませんでした。』と、オウンビーは報告しています。
『塵ダニには、私たちが考えたほどの影響はありませんでした。そのとき、私は南ドイツの学者による研究報告を思い出しました。
農場で育った子どもは、アレルギーを発症する割合が低いという内容です。
私は動物とふれあうプラス効果について考えはじめ、私たちはペットに関する問題をあらためて見直しました。
結果はじつに驚くべきものでした。
私たちが集めたデータでは、
1頭の犬とふれあうと、すべてのアレルギーに対する抵抗力が強まることが示されました。
2頭の場合はその効果がさらに高まりました。
アレルギーを発症する割合がおよそ7割減ったのです。』
ペットとふれあいながら成長すると動物関連のアレルギーの発症率が減ると同時に、塵、花粉、ブタクサその他の植物によるアレルギーも減ります。
犬のいる家で育つ子どもは、かゆみや皮膚の炎症をともなう湿疹も起きにくい。
アレルギーをもつ子どもは喘息も引き起しやすいので、ペットはこの呼吸器疾患の発症も減らすことになります。
この点は、喘息へと発展しやすい幼児の呼吸の乱れを調べた研究でも確認されています。
この研究によると、犬がいる家庭で育つ幼児の呼吸が乱れる割合は、犬のいない家庭の3分の1だったということです。
ペットがいると、成長後にアレルギー体質になる割合が低くなるのは、一つにはエンドトキシンという物質の濃度が関係していると思われます。
エンドトキシンは、大や猫のいる家でバクテリアが作りだす自然化合物です。犬や猫の口内や唾液にふくまれ、犬からなめられたり。
犬がなめた場所をさわったりすることによって、エンドトキシンが人に伝達されます。
幼児期にこの物質にふれると、予どもの免疫系が抵抗力を発達させるため、成長後にアレルギー反応を引き起しにくくなるのです。
じつのところ、これらの物質に子どもをふれさせまいとして、たえず清潔にさせていると、抵抗力を育てるチャンスが失われます。
その結果、成長後にアレルギーを発症しやすくなってしまうのです。
犬になめられることは、べつの病気の予防にもなります。
クローリーにある西オーストラリア大学のジェーンーヘイワースとそのチームは、『お腹の風邪』とも呼ばれる胃腸炎を引き起こす要素について調べました。
彼らは最初、犬は汚れているため家にばい菌を持ち込みやすく、犬を飼うと胃腸炎も増えるだろうと考えたました。
ヘイワースのチームは、6週間にわたって4歳から6歳までの子ども965人を詳しく観察し、吐き気、下痢、嘔吐の状態を記録しました。
その結果、犬や猫を飼っていると胃腸炎の発症率が高くなるという予測とは逆に、ペットのいる家庭では発症が3割少ないことがわかりました。
彼女は最終的にこう結論しています。
『ペットになめられたり、さわられたりして、病気を発症させる有機体に何度も軽く接触すると、子どもたちの免疫力が高まるようである。』
科学的データを総合すると、こんなことが言えそうです。
家で犬を飼うと、人畜共通の病気にかかる可能性は少しばかり高まるかもしれません。
だけど、その点を差し引いても、ペットと一緒に暮らすほうが、あなたの全体的な健康状態は向上するのです。
『犬があなたをこう変える』スタンレー・コレン著
ここには書かれていませんが、子供の動物を可愛がる心を養ったり、癒やし効果など精神的に健康状態も向上させる効果があるでしょう。